中川 恵理
研究概要
成人の外国語(第二言語)学習者によることばの処理、とくに発話の認知メカニズムを研究しています。心理言語学的な行動実験および、脳機能イメージング法(functional MRI、脳波など)を利用した神経科学的な実験を通じて、「外国語がどのように処理され、学習が進んでいくのか」を明らかにすることを目指しています。
外国語学習者の発話に対する教師の反応はどのように処理されるか
「他者ではなく自分の発話」に対して聞き手からポジティブな反応があると嬉しく感じられる、ということが過去の研究により明らかになっています。このことを外国語学習場面に置き換え、教師による承認や拒否という社会的信号が学習者の脳内でどのように処理されているかを検討するfMRI実験を行いました。
実験の結果、頷きのようなポジティブ反応でも首ふりのようなネガティブ反応でも、他者ではなく自分に向けられた場合のほうがより嬉しく感じられることがわかりました。さらにデータを解析したところ、自己の発話に随伴した反応があった後にのみ、視覚野から一次運動野への結合が強くなり、これが「自他の区別」に関わる脳領域により調整されていることがわかりました。また、自己の発話に随伴する教師の反応により視覚野と結合が強くなる領域は、一次運動野のなかでもとくに口の運動と関わるといわれている脳領域でした。(Nakagawa et al., 2021; Neuroimage)
この結果から私は、聞き手の反応の作用で発話技能が強化される可能性が高いのではないかと考え、研究を進めています。
他者との相互作用により外国語学習はどのようにすすむのか
子供の場合と同様、大人が外国語で発話する能力を強化する際に他者とのやりとり(インタラクション)を通した学習が有効だと考えられます。一方で、外国語でのインタラクションは熟達度の低い学習者にとっては認知的負荷が高い活動でもあります。
他者とのインタラクションという高負荷な活動が、外国語学習時においてどのように作用するかは自明ではありません。そこで私は今後の研究において、他者とのインタラクションの学習促進効果を検討し、得られた知見をもとにした外国語学習支援システムの開発に取り組んでいきたいと考えています。
fMRIデータを解析して得られた脳活動の図(Nakagawa
et al., 2021; Neuroimage)