岡久 太郎
研究概要
我々は普段コミュニケーションを行う際、現在耳にしている単語の羅列のみを処理しているのではなく、それ以外の多様な情報を組み合わせて他者に自身の意図を伝え、他者の意図を理解しています。言語学では、理解の対象となっている言語情報の周辺に(時間的・空間的に)存在する情報を文脈と呼びます。このような文脈が言語の伝達・理解にどのような影響を与えるのかについて認知言語学の観点から研究を行っています。
認知言語学と文脈
認知言語学では、文法を規則の集合としてではなく、実際の言語使用に根ざした言語表現の組み合わせパターン (=構文, construction) の記憶として考えます。この考え方を使用基盤モデル (Usage-based Model) と言います。
使用基盤モデルの考え方において、言語習得は言語経験において頻繁に観察されるパターンを構文として記憶していくと想定しています。この時、構文の構成要素として記憶される外界からの刺激は、言語情報のみに留まらず、言語以外のマルチモーダル情報を含んでいると想定されています。私の研究では、いかなる種類の情報が言語の意味に関わっているのかを明らかにすることを目指して研究を行っています。
イントネーションと発話の意味
発話全体の意味を反映した音の上がり下がりをイントネーションと呼びます。音声会話において、イントネーションは肯定文であれば下降調、疑問文であれば上昇調というように、文法的な役割を果たすこともあります。
特に日本語では、意図された文法構造(=統語構造)に応じて、イントネーションのパターンが変わるということが古くから知られています。このような特定の言語表現と結びつくイントネーションパターンも構文の構成要素の一つと考えることができます。このようにイントネーションを構文の観点から捉えることで、言語表現の意味との関わりを考える研究を行っています。
ジェスチャーと発話の意味
我々は日常会話において様々なジェスチャーを発話に共起させています。ジェスチャーは、電話会話のような相手に自分の姿が見えない場合にも自然と発話に共起することが多々あります。ここから窺えるのは、ジェスチャーは単なる補助的な伝達手段ではなく、言語使用と深く結びついた、構文の構成要素となりうるものであるということです。事実、話者の母語が持っている文法的特徴に応じて、特定の発話に共起するジェスチャーのパターンが異なるという研究結果も報告されています。私の研究では、主に言語の文法的な側面とジェスチャーの対応関係に着目しています。
教員/研究室の独自ページ
統語構造に応じたイントネーションパターンの差異
[白い [カーテンの 留め具]] を表すジェスチャー