行動情報学科 白砂大講師
認知と実社会との相互作用から、人の判断・行動を理解する
例えば、風邪をひいて薬を買おうとしているときに、よく知っている製薬会社の薬Aと、知らない製薬会社の薬Bを見つけました。薬に関する知識はないけれど、体調が悪いので詳しく調べる余裕もない。そんなとき、「とりあえず知っている方(薬A)を買おう」と考えることも多いのではないでしょうか。
人は、具体的な情報や知識があればそれに基づいて判断します。しかし知識が乏しい場合、直感的な、一種の経験則で判断を下すこともあります(例: 知っている方を選ぶ)。これは、一見すると単純ですが、実は状況・環境にうまく適応する形で行われていることも多いものです。例えば上の例では、実世界で「ある基準において価値が高い(例: よく効く薬)なら、メディアに掲載される頻度が高いため、よく見聞きする」という環境構造が成り立っており、人は(半ば無意識的にも)その環境構造を利用しているために、「知っている方を選ぶ」方略がうまくいくと考えられます。
人の直感・経験則に潜む合理的側面、すなわち環境や課題に適応した方略使用について、行動実験や計算機シミュレーションを通して検証しています。特に、実験データのみならず実社会データをも活用してモデル化することで(例:「メディアに掲載される頻度」の指標として「webの検索ヒット数」を用いる)、実社会に生きる人の適応的判断を探求していきます。
さらに、方略使用者の認知プロセスの特徴(衝動的/熟慮的など)をマウスカーソルの軌跡といった行動データから検証したり、時間的要素(記憶の減衰/活性など)を考慮したより高度な認知モデリングを試みたりすることで、知見のさらなる拡張も図っています。

「問い」を根幹とした文化・競技の認知基盤を探る
人は、「これは何?」と他人に問うことで、知識を得て、外界と関わります。また、時には問われる側にもなり、他人に知識を伝え、他人の意図を推定します。「問い」という営みは、人が誰しも経験する、人の知性の根幹にもかかわるものです。
そして「問い」という営みは、クイズ(特に早押しクイズ)という形で、一種の競技・文化として注目されてもいます。
しかしそれにもかかわらず、「問い≒クイズ」にまつわる人の認知機序は、実はほとんど明らかになっていません。
早押しクイズには、「回答者・競争者・質問者」という三者のインタラクションを伴います。競争者より先にボタンを押さなければならない。そのためには、問題文の途中でもボタンを押して、質問者の意図(正答)を予測する必要がある。この間にも、誤答に対するリスクや確信度など様々な認知的要素が絡む… 単なる「知識の有無」を超えた一瞬の駆け引きが、ここには潜んでいます。
不十分な情報から正答を導き出す過程や、聞きたいことを的確に引き出すための問い(文章)の作り方は、人の言語処理や応答/作問システムの開発、効果的な知識の伝達などにも応用できる可能性があります。また、クイズを一種の競技だと捉えれば、競技戦略の立案、競技者のみならず観戦者も楽しめる競技設計などの提言にもつながります。
実際の大会データをご提供いただいたり、実際のクイズプレイヤーと連携・議論したりすることを通して、「問い≒クイズ」を文化たらしめる認知基盤を、認知科学・心理学の視点から明らかにしていきます。

人の認知を考慮して、効果的な「集合知」を実現する
優れたAIが我々にとって身近になった昨今は、「AI協働時代」とも言われます。このような時代には、「人」単独、あるいは「AI」単独の判断の精度ではなく、人とAIが力を合わせたときの、いわば「人×AI」の判断の精度を高めることが重要です。
複数人の意見を単に集約させる(例: 多数決、平均化)だけで集団としての判断の精度が良くなることを、認知科学では「集合知」と呼びます。集合知の達成には、集団に属する個々のメンバーが画一的な意見・回答を持つのではなく、多様な意見・回答を持つことが重要です。なぜなら、多様な意見が出されることによって、一部の個人が持つ誤り(バイアス)を打ち消せる可能性が高まるためです。
AIによるアシストの精度自体を高めることが、一般的には重要視されます。しかし集合知の知見を踏まえると、人の認知を考慮することの重要性も見えてきます。人の判断には多くの場合、バイアスがつきものです。そうであれば、個々人のバイアスをうまく打ち消せるようなAI(時にはあえてAIにバイアスを持たせる)の方が、「人×AI」の精度を効率的に高められる可能性があります。
認知科学の観点から、人の判断能力をよりうまく引き出すための介入策を、理論的・実験的に検証していきます。さらに、医療関係者など他分野の方々にもご協力いただき、その実社会応用についても検討しています。

白砂研究室
認知科学的アプローチから 「人の知性 (human intelligence)」を探る
白砂大講師
専門分野
認知科学、意思決定科学、行動経済学
主な担当科目
多変量解析
